『アメリ』 | 古書店主の殴り書き

『アメリ』

・監督:ジャン=ピエール・ジュネ 【9点】
・主演:オドレイ・トトゥ

 以前から、気になっていた『アメリ』をやっとビデオで見た。私は基本的に、人がバタバタと死ぬ映画が好みなんで、この手の作品にはあまり食指が動かないのだ。

 いやあ、もっと早くみておきゃよかった。こいつあ、傑作だ!


 私は、ハーヴェイ・カイテルは好きだが、『スモーク』という作品は嫌いだ。一方、オドレイ・トトゥは好みでないが、『アメリ』は大好きだ。


 アレクサンドル・デュマの芝居じみた展開を、リアルな映像で表現したような趣がある。芝居じみた手法でハリウッドは失敗しているが、『アメリ』は見事なまでに成功している。その上、ミステリアスな伏線まで用意しているのだから、フランス映画恐るべし。


 日本人であれば、『レオン』のマチルダは可愛いと思っても、オドレイ・トトゥの顔には、身を強張らせるような何かがある。しかしながら、青磁を思わせる肌と白目はこの上なく美しい。ワカメちゃんと同じオカッパ頭は私好み。そして何よりも、少女と大人の間(はざま)を揺れる演技がお見事。笑うと別人の如くチャーミングになる。


 どこを取っても、フランスの洒落っ気が楽しい。アメリは「境界性人格障害」と思われるが、よくもまあ、ここまでカラッとしたポップな映像に収めたものだ。


 細部の描き方が秀逸。登場人物の「好きなもの」と「嫌いなもの」は文学的ですらある。人間の癖を前面に出すことによって、愛すべき人物のリアリティが増している。


 アメリは主人公でありながら、トリックスターでもある。アメリが、一滴(ひとしずく)のエッセンスを振りまくと幸福が生まれ、怒りのスパイスを加えられた人は不幸になる。社会と折り合いをつけることのできないアメリを取り巻く人々も、やはり社会から阻害されている。だが、この上ない親愛の情が、アメリに勇気を与える。淡い恋心は、互いを労(いた)わるような優しいキスとなって実を結ぶ。

『癒し系映画「アメリ」への疑問』に書かれている批判は見当違いも甚だしい。雑誌『プレジデント』なんぞに絡んでいるような手合いにとっては、“社会的な成功”しか幸福の数に入らないのだろう。


『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ドッグヴィル』とは全く正反対の意味で傑作だ。私は立て続けに二度も見てしまった。閉ざされた少女の心をすくい取り、乙女の小さな夢を巧みに描いて秀逸。映像と効果音も比類のないものだ。